怒りの紹介:2016年日本映画。吉田修一原作小説「怒り」の映画化作品。監督は2011年に同じく吉田修一原作小説「悪人」を映画化した李相日。家出して歌舞伎町の風俗で働いていた愛子はある日父親に見つかり千葉の家へと連れ戻された。数か月ぶりの地元、そこには見慣れない男がいた。それは地元の人間でさえも素性の知らない男。同時期、東京と沖縄でも素性を明かさない男が現れる。彼らは一体どこから来た何者なのか。鍵を握るのは一つの事件。八王子で起きた夫婦惨殺事件。現場に残る「怒」の文字。1年が経った今もなお犯人は捕まっていなかった。
監督:李相日 出演:渡辺謙(槙洋平)、妻夫木聡(藤田優馬)、綾野剛(大西直人)、森山未來(田中信吾)、松山ケンイチ(田代哲也)、広瀬すず(小宮山泉)、池脇千鶴(明日香)、宮崎あおい(槙愛子)、ほか
映画「怒り」ネタバレあらすじ結末と感想
映画「怒り」のあらすじをネタバレ解説。予告動画、キャスト紹介、感想、レビューを掲載。ストーリーのラストまで簡単に解説します。
映画「怒り」解説
この解説記事には映画「怒り」のネタバレが含まれます。あらすじを結末まで解説していますので映画鑑賞前の方は閲覧をご遠慮ください。
「怒り」の予告編 動画
「怒り」のネタバレあらすじ:夫婦殺害事件
始まりは東京八王子の夫婦殺害事件。現場となった家は血で溢れ夫婦の遺体は浴室に入れられていた。大量の血痕。そして凶器と思われる包丁が落ちていた場所のドアにはその血で大きく「怒」と書きなぐられていた。捜査の中で指紋が発見された。しかし犯人の逮捕には至らず事件発生から1年が経った今でも犯人はまだ捕まっていなかった。犯人は顔の整形手術をして逃げていると考えられ、整形後や女装姿の指名手配写真も作られていた。テレビでは未解決事件の特番でこの悲惨な夫婦殺害事件が取り上げられ、警察も視聴者からの情報提供に期待していた。
「怒り」のネタバレあらすじ:千葉編1
家出をして数か月が経ったある日、愛子(宮崎あおい)の働いている新宿・歌舞伎町の風俗店に父親(渡辺謙)が現れた。その時愛子は酷く疲れまともに起き上がることも出来なかった。父親である洋平はそんな愛子に対し怒りを露わにすることはなかった。むしろとても心配しすぐに愛子を連れ自宅のある千葉の港町へと戻った。愛子のいない間にある一人の男が洋平の働く漁港に住み着いていた。田代と名乗る彼(松山ケンイチ)は各地を転々としていた言わば素性の知れない男だった。しかし暗いながらもよく働く彼に洋平は少しの信頼を置いていた。愛子もまたそんな田代に惹かれ始めていた。地元での父との暮らしを思い出し始めた愛子はいつしか父の分だけではなく田代の分の弁当まで作るようになっていた。洋平はそんな二人を見て正直に応援することはできなかった。それは心のどこかでまだ田代を信用しきれていなかったせいだ。
「怒り」のネタバレあらすじ:東京編1
ある夜、ゲイの集まるハッテン場へとやってきた優馬(妻夫木聡)は暗がりで膝を抱える一人の男(綾野剛)を見つけ覆いかぶさる。暗闇で激しくセックスした後二人はその場を離れラーメン屋へと立ち寄った。名前も知らないその男に興味を惹かれた優馬は彼に次々に質問をぶつけた。年齢、住んでいる場所、仕事。優馬の質問に答えないまま彼はふとテレビを見上げる。そこに写るのは1年前に起きたある事件の特集。しばらくその特集を見つめた後その男はぼそぼそと話し始める。直人と名乗るその男は28歳。友人の家を転々としながら働く所を探しているのだという。行く場所がないのならと優馬は彼を自宅へと招いた。直人はそれから優馬の家に住み着くようになった。不思議な男だった。持ち物は少なく、仕事もない。この時代に携帯も持たずそもそも彼が今まで何をしてきたのかも分からなかった。それでもそんな直人に優馬は日に日に惹かれていった。
「怒り」のネタバレあらすじ:沖縄編1
母親の都合で沖縄へとやってきた泉(広瀬すず)は地元の男の子・辰哉(佐久本宝)に頼み人のいない何もない無人島へと連れて行ってもらう。島に着くと泉は一人奥へと進んだ。海も木も砂も美しい誰もいない島。そんな島の奥には廃墟があった。恐る恐る足を踏み入れる泉、すると突然頭上に人影が現れた。あまりの驚きに腰を抜かしてしまう泉。彼女の前に現れたのは一足先にこの場所を訪れていたバックパッカー(森山未來)だった。田中と名乗るその男は数日前にこの場所へ来たのだと言う。そして立ち去る泉にここにいることを誰にも知らせないでほしいと伝えた。次の日、泉はまたあの島の廃墟へと来ていた。あの男に興味を惹かれてしまったのかそれ以来二人の距離は縮まっていった。田中と名乗るその男もまた日雇い労働をしながら各地を転々としているという。ある日泉はいつもボートであの島へと連れて行ってくれていた辰也と沖縄本島へ来ていた。辰也にデートに誘われたのだ。その夜辰哉と商店街を歩いている泉は一人の見覚えのある男を見つける。
「怒り」のネタバレあらすじ:千葉編2
千葉の漁港。愛子と田代の仲は日に日に深まっていっていた。そして二人は近くのアパートでの同棲を考えていることを洋平へと伝える。二人の仲が深まるにつれ洋平の田代への不信感は大きくなっていた。そして洋平は田代が話していた過去を探るため彼が千葉に来る前働いていたという軽井沢のペンションへと向かった。そこで知らされたのは田代の名前。そのペンションでは田代は違う名前を名乗っていた。その事実を洋平は愛子に話した。すると愛子は身体を震わせながら洋平の知らない田代の過去の話を始めた。愛子の話では田代は両親の借金を背負わされているのだという。そして借金取りから逃れるために名前を変え各地を転々としていたという。娘を信じようとする洋平は田代に少しの違和感を感じながらも二人の同棲の話を進めた。そしてとうとう二人は洋平の元を去っていき同棲を始める。ある夜、洋平が家でテレビを見ているとある事件の特集番組が始まった。それは1年前の夫婦殺害事件。その犯人の新しい情報が公開されたという。そのテレビに映る防犯カメラの映像を見て洋平は目を疑った。一瞬だが誰かに似ていた。田代だ。
「怒り」のネタバレあらすじ:東京編2
東京。以前の優馬なら誰かに自分の人生に深入りされるのは嫌だった。しかし直人と暮らし始めて少しづつ変わっていった。優馬はある日自分の母親が入所しているホスピスへと直人と共に向かった。優馬の母親は末期がんであまりいい状態ではなかった。ほとんど寝たきり状態で部屋を出る時は車いすを要した。直人はすぐ優馬の母親と打ち解けた。仕事をしていなかった直人は優馬が仕事にいっている昼間施設に来て母親の話相手をするようになった。そしてそれからしばらく経った日、優馬の元に一本の電話が入る。慌てて施設へと駆け付けた優馬。廊下には膝を抱えるようにして直人が座っていた。母親は亡くなってしまった。葬式に直人の出席を拒んだのを優馬は申し訳ないと思っていた。しかし彼の古くからの友人も出席するその場で直人のことをどう話したらいいか分からなかったからだ。ある日優馬は友人からある話を聞かされる。優馬の友人二人が相次いで強盗に入られたというのだ。その電話を受けている時優馬は通りがかったカフェで直人の姿を見つける。彼は一人の女性と楽しそうに話しをしていた。
「怒り」のネタバレあらすじ:沖縄編2
沖縄。見覚えのある顔を追いかける泉は大きく彼の名前を叫んだ。2度目にして驚くように振り向いた男はあの田中。珍しく本島に来ていた彼と泉、辰哉は三人で居酒屋へと入った。辰哉は泉と年も近いせいか泡盛を飲みすぐに酔いつぶれて眠ってしまった。そんな辰哉をよそに田中と泉は二人の話で盛り上がった。フェリーの最後の時間もあり泉は田中と別れることになった。しかし田中と別れてすぐ酷く酔った辰哉はふらっと姿を消してしまう。その後を追いかけるうち泉は米兵が集まる路地へと来ていた。そして路地を抜けた所で突然何者かに口を塞がれレイプされてしまう。叫ぶ声は夜の公園に虚しく響き泉は2人の米兵に犯されてしまう。その様子をなすすべなく見ていたのは辰哉だった。そして誰かがポリス!ポリス!と警察を呼ぶ声が聞こえ米兵達は慌てて姿を消した。辰哉はすぐに泉の元へと行き携帯を手にするが泉は力なくやめるように言う。警察は呼ばないで、誰にも言わないでと。
「怒り」の結末:田代の正体(千葉)
あの特集番組を見てからというもの洋平の田代に対する疑問は日に日に大きくなっていった。そしてその疑問は洋平が知り合いの明日香に相談したことで愛子にも伝わった。ある日、町の掲示板の指名手配犯の写真をじっと見つめる愛子に出会った洋平。愛子は少しの疑いも見せないようだった。しかしある雨の日突如傘もささず洋平の元へと愛子が姿を見せた。そして洋平に通報したことを泣きながら伝える。その後やってきた警察の北見により愛子の自宅が調べられた。そしてその結果愛子の自宅から見つかった指紋があの犯人と一致しないことを告げられる。その事実にその場に座り込む洋平と泣きじゃくる愛子。疑った相手は犯人ではなかった。その後行方をくらませていた田代から電話が入る。そして愛子は田代を迎えに東京駅まで出向いた。
「怒り」の結末 2:直人の正体(東京)
優馬もまた1年前の夫婦殺害事件のニュースを見ていた。そこには犯人の特徴として顔に縦に3つ並んだホクロが写っていた。直人にもそのホクロがあったのだ。そして先日の女性との密会に関する黙秘。直人に対する疑問がここに来て大きく膨らみ始めた。そしてある日から直人はぱったりと姿を消した。電話も出ず家にも帰ってこず二人の距離は離れ初めていた。そんな時優馬の元に警察から電話が入る。「藤田優馬さんですね?大西直人さんをご存知ですか?」と。それだけを聞き恐ろしくなった優馬は知らないと言って電話を切り直人の使っていた衣服などを次々とゴミ箱に放り込んだ。それからしばらくして以前直人を見かけたカフェに立ち寄った優馬。そこにはあの日直人が楽しく話していた女性の姿があった。優馬は彼女に話しかけた。直人がどこにいるか知っているか、と。その女性は取り乱す優馬に落ち着くように言い、優馬を座らせた。そしてゆっくりと話し始めた。自分は直人と同じ施設で育った兄妹のような関係だと。そして先日、心臓が昔から弱かった直人が公園で倒れているのが見つかったこと、そして亡くなっていたことを。それを聞いた優馬は彼を信じることができなかったことを悔やみ、涙を流しながら女性の元を去っていった。
「怒り」の結末 3:田中の正体(沖縄)
辰哉の住む民宿で働いていた田中は人柄もよく頼りにされていたはずだった。ある日辰哉は大きな物音に気付き民宿の食堂へと向かった。そこでは田中がフライパンを振り回し厨房や食堂を荒らしていた。棚は倒され水槽は破壊され暴れ回ったと思いきや彼はそこから逃走し行方をくらませた。突然のことに訳も分からずにいた辰哉だったが彼のいる場所の検討はついていた。あの島の廃墟だった。一人廃墟へと向かう辰哉。そこで見たものは自分の顔をハサミで切りつけている田中の姿だった。物音で気づいた田中はいつもの調子で辰哉の元へと近づく。しかし次の瞬間田中はハサミで壁をひっかき始めた。そこに書かれていたのは大きな「怒」の文字。そして辰哉に掴みかかりある話を始める。先日の泉の強姦事件。田中は笑いながら陰で見ていたのだという。信用しきっていた田中に裏切られた辰哉は田中が落としたハサミで彼の腹を突き刺した。
「怒り」の結末 4:犯人と事件の真相
一人の男が夫婦殺害事件とは別件で取り調べを受けていた。その男は犯人と働いていたと言う。彼の言う犯人の男と話をしたのだという。その男はある日現場へと派遣された。しかし指定された場所へ行っても現場は見つからず男は上司に電話をした。するとそれは前の日の現場だと言われてしまう。しかし男には分かった、電話の向こうでにやけている姿が。男は汗だくである家の前に座り込んだ。するとタイミングよくその家の女性が帰ってきたのだ。そしてそんな汗だくの男に優しくしたのが運の尽き、男は見下されたと思いその女性を殺した。そして後から帰ってきた旦那にも手をかけた。それがその事件の真相だった。
後日その事件の容疑者を殺害したとして沖縄に住む少年辰哉は逮捕された。
以上、映画「怒り」のネタバレあらすじと結末でした。
「怒り」の評価・感想
“怒“の血文字が残された殺人事件と逃亡を続ける犯人像を軸に、事件が生んだ“疑いの念“が人を信じる心に歪みを与えていく様を、東京、沖縄、千葉を舞台とした3つのストーリーで紡いでいく。観る前からしっかりと覚悟していたのに、鑑賞後の沈みは相当なものでした。悲しいし、辛いし、苦しい。素性不明の3人の男の誰が犯人なのか。というミステリー要素は、実は少なくて、3人の男を巡る「人と人の関係性」を真っすぐに描いた、実にメッセージ性の強い作品なのだと感じました。人を信じることの大切さ。疑うことの辛さ。疑ってしまった自分への後悔。信じてしまった後悔。人は人を信じないで生きていくことは出来ないし、全部を信じて生きていくことも出来ない。人は間違うし、後悔する生き物で、正解が必ずある訳でもない。それでも、私たちは誰かを信じて、時に裏切られて、少しずつ強くなって生きていくしかない。全ての俳優が主役と言える迫真の演技で、ベストパフォーマンスなんじゃないかと思えます。目を背けたくなるようなシーンも全力で映しきった監督の思い切りも素晴らしく、それに答えた俳優たちにも感動しました。本当に最後まで全員を疑って、その真実を知って、彼らを愛した人と共に後悔しました。誰も信じられない世の中でも、愛した人のことだけは信じたい。裏切られてもいい。信じたいと願う気持ちが人を前に進ませると思うから。3つの舞台の中で、特に千葉編での3人、渡辺謙さん宮崎あおいさん松山ケンイチさんの演技がとても心を打ちました。ふらりと現れた田代と雇い主の洋平、そして娘の愛子。3人の表情が素晴らしい。洋平と愛子の慟哭には心をギュッと掴まれたような苦しみがあり、ラストの田代の表情が忘れられません。人を信じることが難しいって知っているから、信じて貰えた時の喜びを、強く感じることが出来る。決してすっきりとした気持ちで終わる作品ではないと思う。すごく疲れて、心は沈むし、なんでと思い始めたらきりもない。だけど、2度と観たくない名作って、あるんです。